赤信号


A「いやーっ、今年の夏は暑いねえ」

B「あつはなついねえ」

A「そー言うベタなギャグはやめろよ」

B「なにぃっ、安倍なつみをばかにするのか!」

A「してないよ」

B「田中麗奈はどうすりゃいいんだ」

A「なんだよそれ」

B「夏といえばね」

A「いきなり話変えんなよ!」

B「君は夏に酒何飲む」

A「おれ? うーん、やっぱ冷酒をキュッと」

B「だめだね」

A「だめかな」

B「分かってないね」

A「分かってないかな」

B「夏はやっぱファンタだよ」

A「酒じゃないじゃん!」

B「1.5リットルのペットボトルでぐいぐいと」

A「飲みすぎだよ」

B「キープしちゃったりして」

A「そんなボトルキープするな」

B「それにしても日本人は年がら年中酒飲んでますね」

A「あーそうかもね」

B「春はお花見」

A「うんうん」

B「夏はビアガーデン」

A「うんうん」

B「秋は月見酒」

A「冬は雪見酒だろ」

B「違うね」

A「違うの」

B「分かってない」

A「分かってないか」

B「冬はかまくら酒でしょ」

A「へー、いいねそれ」

B「鎌倉の大仏様を拝みながら飲む酒な」

A「そんな罰当たりな酒飲むな!」

B「お供え物をおつまみにね」

A「やめなさい」

B「でも酒はいいんですけど、困るのが酔っ払い」

A「あー、酔っ払いは困るね」

B「うぃーっく」

A「あーこらこら交差点渡っちゃいかん」

B「あん? 渡らなきゃ向こう行けないだろーが!」

A「今は赤信号だから渡っちゃ駄目」

B「おめー『赤信号みんなで渡れば怖くない』って格言知らねーのか!」

A「それはたけしのギャグ! 真に受けちゃいかん」

B「何だ偉そうにって、あんた、その制服は警察官?」

A「そうだよ」

B「パイロットかと思った」

A「そーなんだよ、やっと慣れたけど婦警の制服はスチュワーデスみたいになっちゃうしなって、関係無いよそんなこと」

B「あんた、制服フェチ?」

A「ぎくっ。い、いや、そそそそんなことはない」

B「隠すなって」

A「かかか隠しちゃいない」

B「おれも制服好きなんだよ」

A「ほ、本官は別に」

B「アレキサンダーとか、ジンギスカンとか」

A「そっちのせいふくかって渡っちゃ駄目!」

B「なんで渡っちゃ駄目なの」

A「今赤信号だったでしょ」

B「なんで赤信号だと渡っちゃ駄目なの」

A「道交法に違反するからだよ」

B「そんなどーこー言うなって」

A「つまんないよ」

B「なんで道交法に違反しちゃいけないの」

A「法律だからだよ」

B「なんで法律守んなきゃいけないの」

A「いいですか、あなたは日本国民でしょう、日本に住んでる」

B「違うよ」

A「えっ違うの」

B「おれが住んでるのは世田谷だよ」

A「日本じゃん!」

B「1LDK月五万」

A「安いなあって、誰も家の事なんか聞いてないよ」

B「職務質問するのが仕事だろ」

A「そーだけど、いまは別に質問してません、だから渡るなって!」

B「渡んなきゃ向こう行けないでしょ」

A「今は赤信号だから渡っちゃ駄目」

B「『赤信号皆で渡れば怖くない』って格言知らねーのか!」

A「それはたけしのギャグってあああここに戻ってくるのか」

B「戻ってくるも何もあんたが向こう行かせてくれないんでしょーが」

A「あなたが赤信号に渡ろうとするからでしょ!」

B「赤信号渡っちゃ悪いのかい」

A「悪いよ」

B「どーして」

A「道交法に違反するからですよ」

B「それで何で渡っちゃ駄目なの」

A「警察官として、法の番人として見逃すわけにはいかないんですよ」

B「身内の不祥事は見逃すくせにか!」

A「いやなこと言うなあ! 一連の警察の不祥事に関しては、警察が信頼と権威の回復を賭けて内部機構の綱紀粛正にあたってます! であればこそ、目前の小さな犯罪を、渡らないでってば!」

B「なんで渡っちゃいけないの」

A「赤信号だからですよ」

B「さっきから赤信号赤信号って、あんた渡辺 正行?」

A「なんで本官が『まめー』とか言わなきゃいけないの」

B「じゃあラサール 石井でしょ」

A「ラサール高校なんか出ていないっ。MC小宮でもないっ。『倦怠期です』なんか歌ってないっ!」

B「なんだあんた結構ギャグ詳しいじゃん」

A「そう? いや、本官も嫌いじゃないんで。最近だとやっぱりって、渡らないでって言ってるでしょ!」

B「『赤信号みんなで渡れば』」

A「だからそれはもういいって! あああ厄介なのに捕まっちゃったなあ」

B「捕まえるのがあんたの仕事でしょ」

A「そう言う意味じゃないんだってば」

B「じゃあどー言う意味」

A「あのね、これ以上警察を愚弄するような態度を取り続けると、公務執行妨害で逮捕しますよ!」

B「うわっ! 官憲横暴! 権力の犬!」

A「そんな言い方しなくったって」

B「どーりで犬のお巡りさんって言うわけだ」

A「あれは童謡でしょ!」

B「動揺してるね」

A「面白くないよ」

B「全身真っ白な犬」

A「何それ」

B「おもしろい」

A「あ、それちょっといいかも、だから渡るなって言うのに!」

B「何だよ偉そうに!」

A「偉そうにしてるわけじゃない、赤信号渡るのを注意してるんです」

B「その態度が偉そうじゃないか! 公僕のくせに! おれの税金で飯食ってるんだろ!」

A「まあ確かにあなたの税金も本官の給料には入ってます。だからと言って、いやだからこそ、あなたが法律を犯すのを黙って見てるわけにはいかないんですよ」

B「なんだ公務員面しやがって、お前それでも血の通った人間か!」

A「何だと!?いや、ちょっと待てよ、先週も部長から市民に愛される警察を目指そうって言われたなあ。おれがトラブルの当事者になったらまずいよな、『警察またも不祥事!』って、そしたらおれクビだろうなあ、いや、法の番人としての職務が」

B「なにぶつぶつ言ってんの?」

A「あ、いや、別に」

B「悩みでもあんの」

A「別に悩みなんか無い」

B「聞いてほしいくせに」

A「聞いてほしくなんか無いよ」

B「おれで良かったら聞いてやるから、言いなって」

A「そ、そうか?実は最近、ちょっと彼女と、行くなってばー!」

B「そんなに話聞いてほしいの?」

A「途中でしょうが、じゃなくて、赤信号なの!」

B「『赤信号皆で』」

A「もういい!」

B「『わっ毒ガスだ』」

A「知らないよ」

B「コマネチ!」

A「それはちょっとメジャーすぎ、そうじゃなくって」

B「何なのさ」

A「あああもう困ったな」

B「『わんわんわわーん』って?」

A「戻ったね」

B「じゃあおれは泣いてばかりいる小猫ちゃんだ」

A「かわいくないよ」

B「なんか言った?」

A「い、いや別に」

B「つまりあんたの言いたい事はこうでしょ?『赤信号は渡っちゃいけない』って」

A「分かってるんじゃない」

B「そりゃおれだって日本国民だもの」

A「急に素直になりましたねえ」

B「青進め、黄色は注意、赤止まれ!」

A「そうですそうですそこまで分かってくれてれば本官も何も言う事有りませんよ」

B「法律は守らなきゃいけませんっ!」

A「その通りです。それじゃー今日はもう遅いから、気をつけて帰って下さいね」

B「はいっ!お巡りさんもお仕事頑張って!」

A「嬉しいなあ。警官やってる甲斐があるよ。あ、ほら、丁度青信号だ。早く渡りなさい」

B「あ、おれんちこっちだった」

A「逆方向なの!?」

AB「どうも、ありがとうございましたーっ!」


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