前にも書いたけど、『The 4th Kind』、といふかその題材についてもう少しツツコミたい。
『The 4th Kind』はこれまた前にも書いたとほり、「記録映像」と「再現映像」を巧みに構成し、また随所に登場するタイラー博士「本人」の憔悴しきつた、文字通り幽鬼のやうな顏が恐怖を増幅させ、ホラー映畫としては1級である。
しかし、「モキユメンタリー」として見るとどうか?
映畫はアブダクシヨン、つまり宇宙人による拉致を題材としてゐるのだけど、アブダクシヨンそれ自體については、以下の文章が當を得てゐるだらう。
もし宇宙旅行をするほど賢いものが現代にいるとするなら、おそらく古代や中世にも、それら同じぐらい知的な存在がいて、同じように宇宙旅行をしていたことだろう。ところが、古代や中世の妄想にはエイリアンや宇宙船を登場させて語ったものはなかった。なぜなら、エイリアンも宇宙船も、今世紀になってつくられたものだからである。美人を誘惑するために神が白鳥の姿を借りたとか、悪魔が修道女を孕ませたとかいった思いつきを、私たちはあざ笑うことができる。というのも、こうした思いつきは私たちの文化的先入観や幻想とは相容れないものだからだ。おそらく古代や中世の人たちからすれば、よその惑星からやってきたエイリアンに拉致されてセックスや生殖手術をされたなどといった主張をこそあざ笑うだろう。誘拐体験者の言い分を今日誰もが深刻に受け取るのは、彼らの妄想が、私たちの文化的信念、つまり銀河旅行は現実に可能で、しかも宇宙にいるのは私たち人類だけでない可能性が非常に高いという信念と、必ずしも相容れないものではないからにすぎない。こうした信念のない時代であれば、誘拐話のような主張を真面目に受け取る者はいないだろう。
で映畫自體へのツツコミなんだけど、劇中、ミラ・ジヨヴオヴイツチ演じるアビゲイル・タイラー博士(以下アビー博士)自身もアブダクシヨンにあつてしまふ。そのとき偶然アビー博士が持つてゐたヴオイスレコーダのスイツチが入つてて、宇宙人の聲と思しきものが録音され、それが古代シユメール語であることが明らかになる。
...宇宙人の言葉つて6000年間變はらないんだ。
宇宙人はアビー博士をはじめとする被驗者らを拉致するが、家に大勢で押し入つてゐるにもかかはらず、隣に人が寢てても氣附かないくらゐ隠密裡に攫つていく。なのにアビー博士の娘を拉致する際は、家の上空にこれ見よがしにUFOでやつてきて、屋根も透過してしまふキヤプチヤビームでさらつていく。
氣附かれたくないのか氣附いてほしいのかどつちなんだ。「古代シユメール語」で「ワレラ・カミ・テウサ・ハカイ」とかなんとか、目的を思はせぶりに言つてくれるし。
「宇宙人の思考や価値觀は地球人とは違ふのだから、地球人から見て行動に整合性がなくても不思議ではない」とか「アドホツクな假説」をいはれさうだけど。
前述のヴオイスレコーダのくだりで、アビー博士は夢中で床に爪を立てるんだけど、そのとき片手にはヴオイスレコーダを握りしめたままなのである。ヴオイスレコーダなんかほつて兩手でやつてれば助かつたかもしれないのにねえ。
ホラーとしてなら文句なしにこはい。しかし「モキユメンタリー」、つまり「もつともらしいウソ」としては以上のやうに「?」である。