時代の斜めうしろ

『徒然草』を讀んでたら

(2010年1月14日 23:18)

第八十五段

人の心すなほならねば、僞りなきにしもあらず。されども、おのづから、正直の人、などかなからん。己れすなほならねど、人の賢を見て羨むは、尋常なり。至りて愚かなる人は、たまたま賢なる人を見て、これを憎む。「大きなる利を得んがために、少しきの利を受けず、僞り飾りて名を立てんとす」と謗る。己れが心に違へるによりてこの嘲りをなすにて知りぬ、この人は、下愚の性移るべからず、僞りて小利をも辭すべからず、假りにも賢を學ぶべからず。

狂人の眞似とて大路を走らば、即ち狂人なり。惡人の眞似とて人を殺さば、惡人なり。驥を學ぶは驥の類ひ、舜を學ぶは舜の徒なり。僞りても賢を學ばんを、賢といふべし。

第七十九段

何事も入りたゝぬさましたるぞよき。よき人は、知りたる事とて、さのみ知り顏にやは言ふ。片田舎よりさし出でたる人こそ、万の道に心得たるよしのさしいらへはすれ。されば、世に恥づかしきかたもあれど、自らもいみじと思へる氣色、かたくななり。

よくわきまへたる道には、必ず口重く、問はぬ限りは言はぬこそ、いみじけれ。

700年前にも「アンチ」や「知つたかぶり」、他人の足を引つぱりたがる人間はゐたやうだ。ツールが變化しても、人間の心根はさうさう變はらない。

追記;(2010年4月1日 23:30)

吉田兼好が「アンチ」である、ととれるやうな、ちよつと言葉不足といふか、誤解を招く表現だつたかもしれない。


無論兼好が「アンチ」であるといふわけではなくむしろ逆で、至りて愚かなる人は、たまたま賢なる人を見て、これを憎む己れが心に違へるによりてこの嘲りをなすにて知りぬ万の道に心得たるよしのさしいらへはすれ—自分よりも優れた人間を妬み、自分とは違ふ考へを嘲ひ、知つたかぶりをする—「アンチ」は室町時代にもゐて、兼好は「かうであつてはならない」、と戒めてゐるのである。

室町時代から700年經つた平成のネツト時代でもかういふ人間がゐるといふことは、「アンチ」はもはや日本人の「宿痾」なのかもしれない。げに下愚の性移るべからず

前の記事「かはるんだかはるんだ」|次の記事「「エエカンジに収まつた」と思ひます」

カテゴリ:

タグ:

トラックバック(1)
トラックバックURL:http://pu-lab.sakura.ne.jp/mt/mt-tb.cgi/44
時代の斜めうしろ - 非Aの世界 (2010年2月21日 11:54)
「A」といふ事柄があつて、ぼくは「Aであつてはならない」と主張したとする。 それ... 続きを読む
最近のブログ記事
ほむらとグリフィス(ベルセルクの)
叛逆の小話「まどか☆マギカ〈完結編〉」
「暁美ほむら」と云ふ名前
君が笑つてくれるなら ぼくは惡にでもなる
ヱヴァQの感想(1囘目)
掃除
イカと正かなづかひの同人誌;正かな同人誌どうぞよろしく(4)
昇竜
猫と正かなづかひの同人誌;正かな同人誌どうぞよろしく(3)
正かな同人誌どうぞよろしく(2)
月別ログ
2013年11月 (4)
2012年11月 (1)
2012年8月 (2)
2012年1月 (1)
2011年11月 (1)
2011年10月 (3)
2011年9月 (2)
2011年8月 (9)
2011年7月 (3)
2011年6月 (8)
2011年5月 (1)
2011年3月 (1)
2010年12月 (11)
2010年11月 (13)
2010年10月 (7)
2010年9月 (2)
2010年8月 (12)
2010年7月 (18)
2010年6月 (11)
2010年5月 (12)
2010年4月 (19)
2010年3月 (22)
2010年2月 (10)
2010年1月 (9)
2009年12月 (8)
2009年11月 (8)
2009年10月 (4)
2009年9月 (13)
2009年8月 (5)
2009年1月 (1)
カテゴリ
ささやき (43)
アニメ (18)
イラスト (9)
ブツクマーク (2)
ブログ (76)
マンガ (12)
日本語 (10)
正字正かな (16)
映畫 (20)
本 (6)
特撮 (16)
食 (9)
ラーメン (17)
ラーメン;インスタント (4)
ラーメン;店 (12)
タグクラウド
購読する このブログを購読