このブログでも參考にしてゐる「ゴルゴ13総合研究所『俺の背後に立つな!』」だが、こちらでは評価を星★★★★★〜★の5段階で附けてゐる。
最低評価の★1つのエピソードとして、「第17巻-2欧州官僚特別便」と「第30巻-2氷結海峡」がある。
だがぼくはこの評価に異論を唱へたい。いはばゴルゴの“辯護”だが、ゴルゴ當人は“辯護”は望むまい。精々「俺について、どう考へるかは自由だ。好きにしてくれ…」
といふだけだらう。
でもまあ「やつてみよう…」
。
「総合研究所」では、以下の點を擧げて、「ゴルゴらしからぬ仕事の進め方であり、大きな不満が残る」
としてゐる。
- ゴルゴが銀時計を射抜く狙撃準備をしていない(準備不足)
- タミノフ教授の胸を狙撃後、ミッションの成否を確認をせず成功と思いこんでいた(過信)
- ヒューム部長との電話により、偶然ミッションの失敗を知った(偶然に依存)
- 最終的にタミノフ教授を殺害しているが、当初依頼の狙撃条件を満たしていない(契約不履行)
まず1。
銀時計の強度がどれほどのものかは知らないが、アーマライトで撃ち拔けないほどだらうか。假にさうであれば、ゴルゴは徹甲彈を使用しただらう。銀時計を撃ち拔くだけでなく、さらに心臓も貫かなければならないのだ。それくらゐの準備はしてゐた、と見るべきだらう。
2と3。
ゴルゴは依頼を遂行した後もロンドンに留まり續けてゐた。これは依頼が遂行できたか、タミノフ教授の生死を確認するためではないか。タミノフ教授はイギリス国家の客人として保護されてゐる。そのやうな人物が暗殺されたとなればマスコミが報じるだらう。その發表をゴルゴは待つてゐたものと思はれる。
たしかにゴルゴはヒュームとの電話により偶然
狙撃の失敗を知るのだが、ヒュームと電話していなくても、ロンドンに留まつてゐたのだから遲かれ早かれゴルゴは失敗を知つたに違ひない。
その後自らタミノフ教授に“取材”し、ゴルゴは狙撃の失敗を確認する。この後ゴルゴはかう考へたのではないだらうか。
KGBのソミノフ(このエピソード、
「タミノフ」と「ソミノフ」がゐるので混同しないやうに)は、わざわざ銀時計が胸ポケツトにしまはれてゐるときに狙撃し、心臓を撃ち拔いてくれと依頼してきた。だが銀時計は撃ち拔けなかつた。銀時計には防彈加工が施してあつたのではないか?
それにタミノフ教授も“祖国の裏切り者”として狙はれてゐる立場にも關はらず、狙撃してくれと言はんばかりに窓邊に立つてゐた。教授はソミノフがいふやうな“裏切り者”ではなく、それを僞裝したスパイではないのか? 教授が“撃たれた”となれば、もはや誰も教授がスパイだとは思ふまい。であればソミノフと教授は共謀して、防彈加工した時計を狙はせたのではないか?
ここでゴルゴは教授が査證を再發行され、“特別便”でソ連に帰国できることを知つたと思はれる。ゴルゴの“疑惑”は“確信”に變はつた。教授はやはりスパイであり、情報を入手し帰還するのだ。依頼にも僞りがあり、それはソミノフと教授との共謀だつたのだ。
であれば4は、「依頼の遂行」ではなく「裏切りへの報復」である。もはや“條件”を守る必要もない。
このエピソードはソミノフが任務の失敗を知り、愕然とするコマで終はる。だが任務が失敗し“愕然”とはしてゐても、ゴルゴに“裏切り”がばれた、とは氣附いてゐないやうだ。どのみち、ソミノフも死は免れまい。
ソミノフはかう依頼すべきだつたのだ。
標的はこの人物だ。君も知つてゐるだらう。わが祖国から“裏切り者”とされ、イギリス情報部に保護されてゐるタミノフ教授だ。だが1つ條件がある。教授が銀時計を胸ポケツトにしまつてゐるときにその銀時計を撃つてほしい。その際徹甲彈などは使はず、銀時計で彈が止まるやうに撃つてほしいのだ。
教授は“裏切り者”とされてゐるがそれは事實ではない。教授はわれわれの一員なのだ。
わが祖国は多彈頭巡航ミサイルの制禦技術を入手しようとしている。その任務には教授が最適なのだ。教授はご存知のとほりロケツト工學の權威だ。KGBの工作員が入手した制禦裝置の解析を教授は現在進めており、そのまま解析を記憶し、教授自身が“生きた函(コンテナ)”となつて情報を持ち帰るのだ。
今現在、教授は祖国から狙はれてゐるとしてMI5に保護されてゐる。誰も教授がスパイだなどとは思ふまい。だがわれわれとしてはもう1つ“煙幕”を張つておきたいのだ。
そこで今回の君への依頼だ。
教授が狙はれてゐるといふだけでなく、實際に撃たれたとなれば、もはや誰も教授に疑ひの目が向けることはあるまい。その後本国が教授とお嬢さんの査證を再發行し、教授は“官僚特別便”で帰還することになつてゐる。
銀時計がポケツトにしまはれてゐるときに撃つといふ困難な狙撃は君をおいてほかに考へられない。
頼む、デューク東郷、引き受けると言つてくれ!
このエピソードではゴルゴは“超人”と呼ばれるエスキモージョーを倒すため、ジョーの婚約者をレイプし悲鳴を録音してそれを流し、ジョーの平常心を失はせ勝利してゐる。
「総合研究所」ではゴルゴの行動について、以下のやうに評してゐる。
卑劣である。全くをもって、卑劣である。本作のゴルゴを認めてもいいのだろうか。卑劣で破廉恥なゴルゴが描かれており、これまで築き上げてきたゴルゴの美学とダンディズムを崩壊させるほどの最低作品である。
本作のゴルゴは下劣で汚い。さらに、酷いのがゴルゴ表情だ。ゴルゴがスージーを犯している場面のゴルゴの表情を見よ。醜い。あまりにも醜い。冷静なはずのゴルゴが2度も大きく目を見開いている。目的の為には手段を選ばないマキャベリズムを描いたのかもしれない。が、ゴルゴだからこそ手段を選んで欲しいのだ。
また「総合研究所」では同樣に氷原での“超人”との鬪ひを描いた第10巻「アラスカ工作員」と對比し、「そこには単なる腕比べ・知恵比べを超えた、男のプライドを賭けた名勝負が描かれていた」
と書いてゐるが、「アラスカ工作員」では、ゴルゴはアラスカの基地を文字通り“砦”にして鬪へた。さらに天候も安定してゐた。
だが「氷結海峡」では、ゴルゴは身1つ、さらに吹きすさぶブリザードの中、壓倒的な“アウエー”の状況で“超人エスキモー”と鬪はなければならない。スターライト・スコープと“天然のレーダ”ソリ犬を揃へてはゐるものの、これだけで「ハンデが埋つた」とはゴルゴは考へなかつたのではないか。そこで最後の決め手として、“婚約者の悲鳴”を準備し、これで勝てる、と考へたのではないだらうか。負ける戰はしないのがゴルゴである。
とはいへ、このエピソードのゴルゴが卑劣
であることは否定できない。エピソードの最後のページはゴルゴの顏のアツプで終はるが、やはり「……」
なのだが、その内心は「女をレイプして勝つとは、俺も“やき”が回はつたものだ……」
と考へてゐるやうにぼくには見える。といふか、せめてさう考へててほしい。